韓国のオフィスドラマや財閥系のドロドロドラマを見ていると、ふとこんな「違和感」を覚えたことはありませんか?
「初めまして。私が当ホテルの〇〇代表です」 「私が企画チームの〇〇チーム長です」
日本のビジネスシーンでは、自分自身で「私が田中社長です」と名乗ることはまずありませんよね。自己紹介の時は「社長の田中です」と言いますし、社外の人に対して自分の上司を呼ぶ時は「弊社社長の田中が」とへりくだるのがマナーです。
しかし、韓国ドラマではみんな堂々と自分の名前に役職をつけて名乗ります。これって、単にドラマの演出なのでしょうか?
実はこれ、日本と韓国の「敬語のルール」と「社会構造」の決定的な違いから来る、非常にリアルな韓国カルチャーなんです。
今回は、韓国のビジネス現場で通訳やコーディネート業務に携わってきた筆者が、この「自分で役職を名乗る謎」について、言語と文化の両面から分かりやすく解説します!
韓国ドラマあるある!「私は〇〇本部長です」の違和感
日本での社会経験のある人が韓国ドラマを見ると、かなり驚くのがこの「自己紹介」のシーンです。
(ただし、最近は字幕の時点で自然な形に補正がかかっているので気付かない場合もあるかも。チャンスがあったら自己紹介シーンで耳を澄ましてみてください。)
日本では、自分の役職はあくまで「会社の中での役割」に過ぎないため、社外の人に対して「私は〇〇部長です」と名乗ると、少し偉そうで違和感を与えてしまいます。(そういう人に出会ったことはありませんが、笑)
しかし韓国ドラマを見ていると、御曹司の主人公も、バリバリ働くキャリアウーマンも、みんな初対面の相手に向かって「〇〇本部長です」「〇〇次長です」と名刺を差し出しながら堂々と名乗ります。
さらには、部下が社外のクライアントに対して自分の上司の話をする時も「弊社の〇〇社長様(サジャンニム)が〜」と、身内であるはずの社長に思いっきり敬語を使っているシーンもよく見かけます。
この日本人の感覚からすると少し不思議な現象は、韓国の根強い「階級社会」が背景にあります。
韓国社会は絶対的な「肩書き・階級社会」
韓国は日本以上に、儒教の思想が社会の根底に深く根付いている国です。儒教では「長幼の序(年齢の上下)」や「社会的地位」によって、明確に上下関係が区別されます。
そのため、韓国では「年齢」と「肩書き(役職)」が、その人のアイデンティティそのものとして機能します。
日本では「田中さん」のように「苗字+さん」で呼ぶのが一般的ですが、韓国で役職に就いている人に対して同じ感覚で「〇〇さん(〇〇シ)」と呼ぶのは失礼にあたります。
必ず「〇〇本部長(様)(ポンブジャン(ニム))」「〇〇チーム長(様)(ティムジャン(ニム))」と、役職名で呼ぶのが絶対的なマナーです。※目上の人、取引先の場合は、後ろに「様(ニム)」を追加。
韓国社会では、役職がその人の社会的なステータスを証明する重要な要素だからこそ、自己紹介の段階から「私はこういう立場の人間です」と明確に示すために、自分で役職名をつけて名乗るのが自然な文化なのです。
日本の「ウチとソト」vs 韓国の「絶対敬語」
もう一つ、この現象を決定づけているのが「敬語のシステム」の違いです。少し専門的な話になりますが、これが分かると韓国ドラマのセリフが100倍面白くなります!
- 日本の「相対敬語」: 日本は「ウチ(身内)」と「ソト(外部)」を明確に分けます。相手(ソト)を高めるために、自分や身内(ウチ)である上司を「ウチの田中が〜」とへりくだって表現します。
- 韓国の「絶対敬語」: 対して韓国は、話している相手が誰であろうと、「話題に出ている人物が自分より目上(地位が上)であれば、絶対に敬語を使う」というルールがあります。
つまり韓国では、社外のクライアントと話している時であっても、自分の社長は「自分より目上の絶対的な存在」なので、「社長様(サジャンニム)がおっしゃるには〜」と敬語を使うのが基本なんです。※近年は韓国のビジネス現場でも、日本の相対敬語に近い「圧尊法」というルールを取り入れる企業も増えていますが、ベースはこの絶対敬語です
この「自分をへりくだる(謙譲)」という概念が日本ほど強くないため、自己紹介でも堂々と「私が〇〇社長です」と名乗ることができるわけですね。
【実体験】実際のビジネス現場でも本当に名乗るの?
では、ドラマではなく「実際の韓国のビジネス現場」ではどうなのでしょうか?
結論から言うと、現実の韓国社会でも、ドラマと全く同じように役職名で名乗り合います。
そのため、私自身、韓国企業で日本語教育をする場合は、この文化的な違いをまず説明しなくてはいけませんでした。
かなり流暢な日本語を話せる人でも、文化的な違いまでしっかり理解している人は多くないため、名刺交換の練習のときも、自分で「キム部長です」と名乗ってしまうというのは、よくあることでした。
まとめ:文化の違いを知ると韓国ドラマはもっと面白い!
いかがでしたか?日本と韓国、お隣同士で似ているようで、実は「敬語」や「人間関係の作り方」にはこんなにも大きな違いがあるんです。
「自分で社長って名乗るなんて偉そうだな…」と感じていたあのシーンも、韓国の「絶対敬語」や「肩書きを重んじる儒教文化」という背景を知ると、見え方がガラッと変わってきませんか?
次に韓国ドラマでオフィスシーンや財閥の会議シーンが出てきた時は、ぜひ彼らの「名乗り方」や「身内への敬語」にも注目してみてください。きっと新しい面白さが発見できるはずですよ!


