『ヘチ 王座への道』を見ながら、こんな疑問がよぎりませんでしたか。
「イ・グム(チョン・イル)は王子のはずなのに、どうしてここまで軽んじられるのだろう」
その答えは、彼の母にあります。
そしてその母を主人公にした韓国ドラマを、あなたはきっと見ているはずです。そう、あの『トンイ』です。
『トンイ』『ヘチ 王座への道』『赤い袖先』。
日本でそれぞれ愛されてきた韓ドラの名作たちは、じつは一本の血筋でつながっています。この記事では、その関係を家系図でひもといていきます。
『ヘチ 王座への道』のイ・グムは『トンイ』の息子だった
チョン・イルが演じるイ・グムは、19代王・粛宗(スクチョン)の次男。即位前は「延礽君(ヨニングン)」と呼ばれ、のちに21代王・英祖(ヨンジョ)として歴史に名を刻む人物です。
その母が、淑嬪崔氏(スクピン・チェシ)。
ハン・ヒョジュが演じた、あのトンイその人です。
『トンイ』をご覧になった方なら、終盤に登場した幼い延礽君を覚えていらっしゃるかもしれません。母がその行く末を案じていた小さな王子。彼が青年となり、王位をめぐる争いに身を投じていくところから『ヘチ』の物語は動き出します。
つまり『ヘチ 王座への道』は、『トンイ』のその後を受け継ぐように楽しめる物語なのです。
『ヘチ 王座への道』『トンイ』『赤い袖先』がつながる家系図
言葉だけでは関係がつかみにくいので、家系図にまとめました。
家系図をたどると、親子三代のつながりが見えてきます。
粛宗の側室・トンイが産んだのがイ・グム。イ・グムの息子が思悼世子(サドセジャ)。そしてその子が、22代王・正祖(チョンジョ)です。
ここに、日本で愛されてきた韓ドラ時代劇を重ねてみます。
| ドラマ | 主人公 | 家系図での位置 |
|---|---|---|
| 『トンイ』 | トンイ(淑嬪崔氏) | 母 |
| 『ヘチ 王座への道』 | イ・グム(英祖) | その息子 |
| 『赤い袖先』『イ・サン』 | イ・サン(正祖) | その孫 |
三世代の人生が、三つの名作を通して描かれている。
気づく人は多くないかもしれませんが、朝鮮王朝の同じ時代を、それぞれ別の人物から描いた物語としてつながっているんです。
ちなみに『ヘチ 王座への道』は、U-NEXTで配信されています。
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『ヘチ 王座への道』のイ・グムが「卑しい王子」と呼ばれる理由
『ヘチ』の序盤、イ・グムは王子でありながら宮廷の外で遊び歩いています。誰ひとり、彼を王族として扱おうとしません。
その理由が、母の身分でした。
トンイこと淑嬪崔氏は、宮中でも身分の低い立場から出発した女性です。針房(チムバン)という裁縫を担う部署にいたという説と、水賜伊(ムスリ)と呼ばれる水汲みや雑用を担当する下働きだったという説があります。
いずれにせよ、王の子を産むような身分の女性ではありませんでした。
当時の朝鮮王朝では、母の身分がそのまま子の価値を決めました。
イ・グムがどれほど聡明であっても、それは覆りません。重臣たちの目に映る彼は、「水汲み女の息子」でしかないのです。
何を訴えても、まともに取り合ってもらえない。『ヘチ』が描いているのは、そんな周囲の偏見をひとつずつ覆していく長い戦いです。
『トンイ』を知っていると、この重みの沁み方が変わります。母が受けた偏見や苦しみを、息子もまた背負っている。ひとつの闘いを、二つのドラマが親子で分け合っているようなものだからです。
『ヘチ 王座への道』の兄イ・ユンは、チャン・ヒビンの息子
イ・グムの前に立ちはだかるのが、病弱な兄・イ・ユン。のちの20代王・景宗(キョンジョン)です。
この兄の母が、チャン・ヒビン(張禧嬪)。
『トンイ』でトンイを追い詰めつづけた、あの女性です。
ここで名前について少しだけ。「チャン・ヒビン」は、姓の「チャン(張)」に「ヒビン(禧嬪)」という側室の位を重ねた呼び名です。本名はチャン・オクチョン(張玉貞)といいます。
キム・テヒが主演した『チャン・オクチョン』は、この女性を主人公に据えた作品です。ちなみに「淑嬪崔氏」も同じ作りで、「チェ(崔)」という姓に「スクピン(淑嬪)」という位を組み合わせています。
興味深いのは、作品によって彼女の描かれ方がまるで違うことです。
『トンイ』では、主人公を追い詰める憎らしい敵役。ところが彼女が主人公のドラマ『チャン・オクチョン』では、王を愛しすぎたがゆえに滅んだ悲劇の女性として描かれます。そして今度は、トンイのほうが悪役として立ちはだかるのです。
見る角度が変われば、善と悪は容易に入れ替わる。韓国時代劇の底知れなさが、ここに表れています。
そのうえで『ヘチ』に戻ると、あの兄弟のあいだに流れる空気がまるで違って見えてきます。
当時の朝廷には、老論(ノロン)と少論(ソロン)という二つの政治勢力がありました。少論が推すのはチャン・ヒビンの息子、老論が推すのはトンイの息子。
つまりあの派閥争いは、亡き母たちの対立が、息子たちの代でも繰り返されているようなものでした。
イ・グムもイ・ユンも、望んで憎み合っているわけではありません。生まれた瞬間から、その宿命を背負わされている。
それが見えていると、二人が交わす一言一言の重さが変わってきます。
通訳の耳|「延礽君(ヨニングン)」の”君”が意味すること
延礽君(ヨニングン)。イ・グムが王になる前の呼び名です。
日本語字幕には「延礽君」とだけ表示されるので、ただの固有名詞に見えます。
けれど原語で聞いている人にとって、この呼び名の最後の一文字に、彼の立場そのものが表れています。
「君(クン/군)」の一文字です。
朝鮮王朝では、王子の呼び名が母の身分によって二つに分かれていました。
| 母 | 王子の呼び名 | 王女の呼び名 |
|---|---|---|
| 王妃(正室) | 大君(テグン) | 公主(コンジュ) |
| 側室 | 君(クン) | 翁主(オンジュ) |
同じ王の子でありながら、母が正室か側室かで呼び名が変わる。しかもこの区別は、生涯ついて回ります。
ただし、跡継ぎである世子(セジャ)が大君の中からしか選ばれなかったわけではありません。嫡子である大君が優先される建前はあったものの、実際には側室の産んだ王子が世子に立てられることも珍しくありませんでした。『ヘチ』のイ・ユンが、まさにその一人です。
ちなみにこの「大君」という称号、現代を舞台にした作品にも顔を出します。ディズニープラスで配信された『21世紀の大君夫人』は、まさにこの称号を背負って生きる男性が主人公。時代が変わっても、名前が人を縛りつづける物語です。

さて、「テグン」と「クン」。音にすれば、たった一音の違いです。
けれどその一音に、宮廷での序列も、周囲から向けられる視線も、これから背負う運命も、すべて込められています。
つまりイ・グムにとって、『延礽君』と呼ばれることは、そのたびに母の身分を突きつけられることでもあったのです。
重臣が「延礽君」と呼びかけるとき、それは呼びかけであると同時に、身のほどを思い出させる行為でもある。
彼が王宮に近づかず、街で遊び歩いていた理由も、おそらくここにあります。どれだけ努力を重ねても、名を呼ばれた瞬間に自分の立場を思い知らされる。ならばはじめから足を向けないほうがいい。あの投げやりな態度は、諦めというより、自分を守るための壁だったのだと思います。
そしてこの時代には、もうひとつ見逃せない事情がありました。
粛宗には、大君がひとりもいなかったのです。
王子はいます。イ・ユンも、イ・グムも、弟のイ・フォンも。けれど全員、母は側室でした。正室である王妃が産んだ王子は、ついに現れなかった。
だからこそ、跡継ぎをめぐる争いはあれほど激しくなります。
誰も決定的な札を持っていない。誰もが『君』であるからこそ、王位をめぐる争いでは、それぞれの後ろ盾となる政治勢力が大きな意味を持ちました。『ヘチ』で大人たちが王子を担いで削り合うのは、この空白から生まれた争いでした。
母の身分が名を決め、名が争いを呼ぶ。イ・グムが本当は何と戦っていたのかを、この一文字が教えてくれます。
『ヘチ 王座への道』はどこまで実話?英祖のその後
イ・グムは実在した王ですから、その後の歩みも記録に残されています。
王位に就いた彼は、英祖として52年という長い治世を送りました。朝鮮王朝で最も長い在位です。対立する勢力の均衡を図る政治を進め、名君として名を残しています。
けれどその英祖には、生涯消えることのない出来事がありました。
ここから先は『ヘチ』が描く時代よりずっと後の話になります。作品の余韻をそのままにしておきたい方は、開かずに読み進めてください。
英祖に起きた出来事を読む(読みたい方だけ開封)
息子・思悼世子(サドセジャ)との断絶です。
思悼世子は英祖の次男でした。兄が早くに世を去ったため、2歳で世子に立てられ、10歳で恵慶宮洪氏を妻に迎えます。
やがて彼は少論の学者たちから学ぶようになり、朝廷を握っていた老論と対立していきました。1749年、父に代わって政務を任されるようになると、その距離はさらに広がっていきます。老論の重臣たちや英祖の妃・貞純王后が世子を追い落とそうとしたと伝えられる一方、近年では世子自身が抱えていた病を重く見る説もあり、この事件の原因については今も見方が分かれています。
父と子の距離は、少しずつ、そして決定的に開いていきました。
1762年、思悼世子は父の命により米櫃に閉じ込められ、そのまま息を引き取ります。父である国王が、息子である世子を死に追いやるという、極めて異例の出来事でした。
「思悼」という呼び名は、英祖がその死のあとに贈ったものです。
『ヘチ』で「万民のための世を創る」と誓った青年が、半世紀を経てこの決断にたどり着く。史実を知ってから見返すと、彼のまっすぐさの意味が、少し違って響いてきます。
そしてこの思悼世子の息子が、22代王・正祖。『赤い袖先』でイ・ジュノが演じた、あのイ・サンです。劇中、父が入れられた米櫃を前に苦しむシーンが印象的ですよね。
祖父によって父を奪われた孫が、何を背負って王座に就いたのか。そこからはまた、別の物語になります。
『トンイ』『ヘチ 王座への道』『赤い袖先』を見るおすすめの順番
血のつながりの順に追うなら、以下の流れがおすすめです。
- 『トンイ』 ― 母の物語
- 『ヘチ 王座への道』 ― 息子イ・グムの青年期
- 『赤い袖先』 ― 孫イ・サンと宮女ドギムの物語
『イ・サン』は正祖の生涯を長編でじっくり描くので、『赤い袖先』のあとに置くと、同じ王を、まったく違う角度から見ることができます。
また、チャン・ヒビンの側から宮廷を眺めてみたくなったら、キム・テヒ主演の『チャン・オクチョン』を挟むのも贅沢な選び方です。
『ヘチ 王座への道』の配信はどこ?関連作品まとめて見るならU-NEXT
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| ドラマ | 追加料金無しで視聴できるサービス |
|---|---|
| 『トンイ』 | U-NEXT/Hulu |
| 『ヘチ 王座への道』 | U-NEXT/Hulu/Lemino |
| 『赤い袖先』 | U-NEXT |
| 『イ・サン』 | U-NEXT/Hulu |
残念なことに、上記はNetflixではひとつも配信されていません。韓国ドラマといえばNetflix、という印象があるかもしれませんが、王道の韓ドラ時代劇をまとめて楽しむなら、U-NEXTがおすすめです。
ウリ『トンイ』『ヘチ』『赤い袖先』『イ・サン』全部観られるのはU-NEXTだと判明!家系図をたどりながら三世代を続けて見る。なかなかツウな楽しみ方だと思います。
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まとめ|『ヘチ』と『トンイ』は親子をつなぐ系譜
最後に、もう一度だけ整理しておきます。
『ヘチ 王座への道』のイ・グムは、『トンイ』のヒロインが産んだ息子。そして『赤い袖先』のイ・サンにとっては、祖父にあたる人物です。
母の身分ゆえに見下された王子が、王座に就き、やがて自らの息子を失う。その孫が、父の死を背負いながら王座に就く。
別々に楽しんできた作品が、一本の線でつながる瞬間があります。
『ヘチ』を見ているいまが、その線を引き直すのに、いちばんいいタイミングかもしれません。


